下あごと比較して、上あごのインプラントの成功率はやや低いとされています。
特に臼歯部においては脆弱な骨質と上顎洞の存在による骨量の不足がインプラントの成功率低下に関係します。
そこで歯槽頂部(骨の上の部分)から上顎洞底間距離が不足する場合には上顎洞底拳上術(Sinus Floor Elevation)すなわちサイナスリフトが必要となります。
このサイナスリフトには①側方からアプローチする方法(サイナスリフト)と②歯槽頂からアプローチする方法(ソケットリフト)があります。
側方アプローチは上顎洞側壁に開窓、シュナイダー膜を剥離挙上し、上顎洞底部に骨造成を行う方法で、1975年にTatumにより報告されて以来、多少の改良が加えられ、現在も広く用いられている方法です。
歯槽頂アプローチは1994年にSummersが独自のオステオトーム(骨質を改善し、上顎洞底骨を槌打する際に使用する器具)を用いて骨移植と同時にインプラントを埋入する低侵襲の方法Bone-Added Osteotome Sinus Floor Elevation(BAOSFE)を発表し、それが現在のソケットリフトの原型となっています。サイナスリフトおよびソケットリフトにはそれぞれに利点・欠点があります。
ソケットリフトとサイナスリフトの適応の基準については当院では、歯槽頂~上顎洞底部の垂直的残存骨量が6mm以上あればソケットリフト、4~6mmでソケットリフトあるいはサイナスリフトとインプラント同時埋入、1~4mmでサイナスリフトのみを行い、のちにインプラントを埋入する2回法としています。
今回は歯槽頂アプローチ(ソケットリフト)についてのお話です。
術前口腔内所見(上顎左側第一小臼歯部の欠損)
術前パノラマエックス線所見
術前CT所見(歯槽頂部~上顎洞底部までの残存既存骨量が不足しています)
ソケットリフトを行いインプラントが埋入されたパノラマエックス線所見
さまざまなオステオトームが改良されていますが、そのほどんどはSummersのオステオトームに改良が加えられたものです。
上顎洞底拳上術において最も注意を要するのは上顎洞粘膜の裂開(膜が破れてしまうこと)です。
ソケットリフトが盲目的な手術法にも関わらず、サイナスリフトより裂開率が低い理由は、上顎洞の側壁部の粘膜の厚みが平均0.3~1.2mmに対して、上顎洞底部粘膜の厚みは平均0.8~2.0mmと比較的厚いためです。ただしソケットリフトは裂開率は低いものの、裂開した場合は手術の続行は不可能となりますので術前の正確な診断と慎重な手術操作が必要です。
ここで使用する補填材料は当院では自家骨(患者さんのご自分の骨)と人工骨(β-TCP)です。
ソケットリフトと同時にインプラントを埋入する訳ですが、手術をしてからどれくらいの期間をおくかといいますと残存骨量が6~8mmの場合は大体4~6か月、4~5mmしかない場合は8~10か月程度としています。
ソケットリフトは比較的簡便な手術手技として多くの臨床医に採用されており、様々な器具やドリル(最近はこれが主流)も次々と開発されていますが、盲目的な手術であることに変わりはなく、正確な手術操作、上顎洞の解剖学的知識等を熟知していることが手術を安全に成功させるためには最も大切であると考えています。
院長 髙木謙一