院長の髙木です。
インプラントにおける印象採得(型採りのことです)は、天然歯の歯冠修復における印象採得とは異なり、口くう内に
おけるインプラント体または前回解説しましたアバットメントの位置関係と周囲の軟組織の形態を専用の印象用トラ
ンスファーコーピング(以下、コーピングと記す)を用いて模型上に再現することがその目的です。
インプラントの印象採得には「オープントレー法」と「クローズドトレー法」という2つの方法があります。
また、印象のレベルについては「インプラント体レベル」と「アバットメントレベル」での印象採得に分けられます。
(オープントレー法)
コーピングを固定用ガイドスクリューにてインプラント体に連結して型採りをします。
オープントレー印象に用いられる個人トレー
写真は印象の内面です。この方法ではコーピングのボディ部が取り込まれます。
このオープントレー法とは、いわゆる取り込み印象(ピックアップ印象)法をいいます。二次手術後にインプラント周囲の歯ぐき
が治癒したのち、ヒーリングアバットメントを外してインプラント体とコーピングをスクリューで固定させ、その一部をトレーより
露出させます。コーピングスクリューを緩めて印象体とコーピングを同時に口くう内から取り去る方法です。
(クローズドトレー法)
コーピングをインプラント体に連結して型を採ります。
クローズドトレー印象に用いられる個人トレー
写真は印象の内面です。コーピングは口腔内に残存します。
このクローズドトレー法(トランスファー印象ともいう)は、二次手術後インプラント周囲の歯ぐきが治癒したのち、ヒーリン
グアバットメントを外して、印象用コーピングをインプラント体に接合させ、型採り後口くう内に残存するのが一般的です。
取得された印象にラボサイドでコーピングを戻したあと、アナログを接合させ模型を製作します。
各インプラントシステムにおいては、オープントレー法とクローズドトレー法が症例に応じて選択的に用いられます。
一般的に、同一の歯列内に複数のインプラント体を埋入する場合は、印象再現性に優れることからオープントレー法が
用いられます。これに対して、インプラント体の埋入本数が少ない場合には、印象採得の簡便さからクローズドトレー法
が用いられることが多いといえます。
埋入本数が3本以下の場合2つの方法では有意差はありません。
オープントレー法とクローズドトレー法を比較しますと
(オープントレー法)
①術式がやや煩雑である
②複数のインプラント体埋入症例においては、印象精度がクローズドトレー法に比較して優れている
③コーピングの高径がクローズドトレー用と比較して高く、開口量が少ない臼歯部には装着しにくい
④コーピングの幅径がクローズドトレー用と比較して広く、埋入間隙が狭い場合には装着しにくい
(クローズドトレー法)
①術式が単純である
②印象精度がオープントレー法に比較して若干劣る
③コーピングの高径がオープントレー用と比較して低く、開口量が少ない場合でも装着しやすい
④コーピングの幅径がオープントレー用と比較して狭く、埋入間隙が狭い場合でも装着しやすい
などが挙げられます。
印象での誤差は複数本のインプラントの場合、その埋入本数でエラーが乗算される可能性があるとされています。
3本以下の本数でのインプラントの印象の場合、2つの方法での臨床上での精度に有意差はないといわれています。
しかし、4本以上の印象採得の場合、オープントレー法による印象方法が誤差を減少させることができると考えられて
います。
次に、印象レベルについてご説明します。
「インプラント体レベルの印象」とはインプラント体レベルにおけるコーピングを用いて印象採得を行うことをいいます。
インプラント体に連結するインプラント体レベル用のコーピングは回転防止機構を備えており、インプラント体の位置
関係が正確に模型上に再現されます。
「アバットメントレベルの印象」とはインプラント体に既製のアバットメントを装着した後に、アバットメントレベルにおける
コーピングを用いて印象採得を行うことで、アバットメントの位置関係が模型上に再現されます。
両者の比較は、既製のアバットメントを用いて暫間的もしくは最終上部構造物を製作することを前提としている症例
において、口くう内でアバットメントを選択してインプラント体を連結した場合は、アバットメントレベルでの印象採得を
行います。一方、模型上でアバットメントを選択したい場合は、インプラント体レベルでの印象採得を行います。
また、カスタムメイドアバットメントを用いた最終上部構造物を製作することを前提としている症例においても、インプラ
ント体レベルでの印象を行います。
カスタムメイドアバットメントはインプラント体からの立ち上がりの形態(エマージェンスプロファイル)を自由に設定できる
ため、インプラント周囲に調和した形態を製作することが可能となります。
それに先立ち装着する暫間上部構造物はアバットメントを介さず直接インプラント体に連結し、インプラント周囲に軟組織
の形態の誘導と安定が図られることが多いのです。さらには、安定したインプラント周囲軟組織の形態を模型に再現する
ため、暫間上部構造物と同様に立ち上がりをもったカスタムメイドのコーピングを製作して、それを用いて最終上部構造物
の印象採得を行う場合もあります。
インプラント治療は非常に高い専門性を要求される治療です。細かな配慮が必要で、術前診断から始まり、埋入手術(時期
や方法)二次手術、印象採得、上部構造物装着、メインテナンス・・・すべての過程での細かな配慮により長期的に安定し、
審美的にも優れたインプラント治療が成り立ちます。
院長 髙木謙一