院長の髙木です。
昨日12月16日(月)は「第2回受動喫煙防止対策専門部会」が世田谷区役所第2庁舎で行われましたので東京都玉川歯科医師会を代表して出席してまいりました。
国立がん研究センターの調査、分析によれば、たばこを辞めたいと思っている禁煙希望者は、主に「禁煙治療」「薬局で販売されている禁煙補助薬」「禁煙本などを用いた自力での禁煙」の方法で禁煙にチャレンジしてはいるものの、禁煙につながったケースは約3割であり、成功率は依然として低い状況にあります。
一方、区は健康せたがやプラン第二次(後期)において20歳以上の成人の喫煙率を、計画最終年度となる令和3年度末に10.0%以下とすることを目標としているものの、中間評価となる平成27年度の喫煙率が14.5%であり、目標としている喫煙率達成には依然として達しておりません。
このような状況を踏まえ、禁煙を希望するものの、禁煙を達成できていない区民、また、これから禁煙に取り組みたい区民を支援するため、様々な方法での禁煙成功体験を周知・啓発し、自分に合った取り組みを促し、多くの禁煙希望者が禁煙に一歩踏み出すための環境整備に取り組んでいます。
昨日の会議では主に「未成年・保護者向け」「事業者向け 加熱式たばこ」「喫煙者向け 肺がん」の受動喫煙防止のポスター作製について、また来年実施予定の「禁煙成功体験者の応募」について議論されました。
たばこが及ぼす口腔内への影響として、当然のことながらたばこは口で吸うものですので、口腔内に様々な影響が現れます。口腔粘膜は重層扁平上皮で構成され、薬物を非常に吸収しやすい組織です。たとえば狭心症発作の際、ニトログリセリンを舌下に置けば、ただちに静脈注射をしたのと同じスピードで薬物が吸収されます。たばこの煙もそのような速さで口腔粘膜から吸収されています。そのことにより口腔粘膜の異常を引き起こし、メラニン色素沈着や前癌病変である白板症、そして口腔がんといったさまざまな病変を惹起する可能性があります。
喫煙による口腔・咽頭がんの発症リスクはたばこを吸わない人の3.4倍で、喫煙開始年齢が低いほど高く、16歳未満の開始で19.5倍にも上昇するといわれています。受動喫煙でも咽頭がんでは1.6倍になります。口腔がんの中でも口底がんでは現在喫煙率が44%とずばぬけて高く、以下硬口蓋、口唇、その他(軟口蓋や舌根部など中咽頭まで含まれるもの)が日本人の平均喫煙率(21%)を超えているというデータがあります。
口底がん(独立行政法人国立病院機構栃木病院(現栃木医療センター)口腔外科勤務時代の自験例)
口底部では喫煙によってニコチンが唾液とともに口底部に蓄積されることによる影響が考えられています。口底部には舌下線や顎下腺の開口部があり、その下には舌の運動を司る舌下神経や舌の前方2/3の感覚を司る舌神経があるため、手術で大きく切除するのがむずかしい場所です。また両側の頸部リンパ節に転移することが多く、このことも治療をやりづらいものにしています。
硬口蓋がん(独立行政法人国立病院機構栃木病院(現栃木医療センター)口腔外科勤務時代の自験例)
硬口蓋では口から吸いこんだ時の煙がそのまま硬口蓋に接触し流れていくことによる影響が考えられています。上顎がんも同様ですが、速やかに骨への浸潤をきたしやすく、軟口蓋・咽頭へ進展することから切除による口腔機能への影響も大きくなります。他の口腔がんと異なり、原発巣と頸部リンパ節転移の一塊切除(en block)ができないという解剖学的特徴を有しています。進行口蓋がんでは外科療法単独ではなく、放射線療法や浅側頭動脈からの選択的動注療法などの化学療法を併用した集学的治療が用いられることもあります。
口腔がんの半数以上は先行する口腔前癌病変から発症するといわれており、また禁煙により消失することも多いことからしますと、口腔前癌病変と診断された時点で歯科医師が禁煙を強く指導し、がん発症の予防に努める必要があると考えています。